銀行に勤めていてフィンテックの動向を知らないのはヤバい人です。仮想通貨なんて「危なっかしい」「自分には関係ない」と無視を決め込んでいると、あっという間に時代に取り残されてしまいます。

独占的優位を保っていた銀行業務を奪われる

フィンテックが社会に広がると、いままで銀行がほぼ独占的に担っていた機能を奪われます。

電子マネー
決済機能を奪われる

生体認証
対面(社会的信用力)の必要性がなくなる

ソーシャルレンディング
融資機能(本体丸ごと)を奪われる

AI(人工知能)
融資審査機能を奪われる

ロボアドバイザー
資産運用機能を奪われる

注目すべきは、フィンテック企業によるこれらのサービス展開力のスピードです。技術革新力だけでなく利用者数を集めるのも非常に素早いので、気がついた時にはもう手の施しようがない状態になっている可能性が高いでしょう。

例えば、決済手数料0円を打ち出すLINEペイ(電子決済サービス)。決済手数料で稼ぐ銀行とは異なり、利用データや顧客情報を使って収益化を目指します。その潜在的な顧客基盤は既に7500万人の利用実績がある無料チャットのLINEサービス。
驚くべきはLINEは2011年にスタートして、たった7年で7500万人の会員を有する規模に成長した事です。ちなみに三菱UFJ銀行の個人口座は4000万口座、三井住友は2700万口座、みずほは2400万口座です。
これからLINEペイのサービスが7500万人に浸透していく過程で、「決済手数料は無料」ということが当たり前になります。携帯電話が普及したことで電話ボックスがなくなったように、銀行は過去の存在になるでしょう。

キーワードは「ブロックチェーン」

ブロックチェーン

銀行員がITに疎いのは知っています。 それでもフィンテックへの理解度を深める為に、「ブロックチェーン」という基盤技術だけは唯一覚えておきましょう。 それは18世紀にイギリスで始まった「中央銀行」という巨大権威を覆す革命的な考え方だから。

ブロックチェーン技術の最大の特徴は、従来の集中管理型システムではなく、分散型ネットワークであること。 システムのコア情報が世界中に分散されているので、データ処理能力をほぼ無限に拡張可能だと考えてよい。しかもその追加コストは、ほぼ発生しないというのがミソ。

さらに巨大企業の集中管理型システムを運営する担当者の頭痛のタネであった「ハッキング被害」とも無縁。 ブロックチェーンは、コアシステムどころか取引履歴も世界中に分散されているから、特定サーバーをハッキングしてデータ改善しても意味がないのです。 もしデータの整合性が合わないサーバーが出現したら、瞬時に異常を検知して削除&修復&複製&復活を繰り返すように全世界中のサーバーが相互に監視しあっているのです。

そうはいっても少し詳しい人だと、「過去に仮想通貨のハッキング被害があったよね」というツッコミを入れたくなるでしょう。それはその通りです。2014年にマウントゴックス事件、2018年にはコインチェック事件が発生しました。
ただ勘違いしてはいけないのは、いずれもブロックチェーンの仕組みをハッキングされたわけではないというのが肝。あくまでも仮想通貨を取り扱う取引所の管理不手際による被害だったのです。
テクニカルな部分へ少し踏み込むと、被害にあった2社は仮想通貨の安全対策として必須である「コールドウォレット※1」「マルチシグ※2」に対応できていなかったにもかかわらず、広く一般へサービス提供を行っていたという運営上の問題点があったのです。

※1)コールドウォレット・・・秘密鍵をネットワークから切り離して管理する事
※2)マルチシグ・・・秘密鍵の暗号コードを複数に分散管理する事

ブロックチェーンの特徴
  • 一瞬で膨大な処理を捌ける
  • 無限の拡張性
  • システム構築費用が安価
  • サイバー攻撃に強い

ブロックチェーンが誕生する以前、金融取引の認証機関といえば各国の銀行・クレジットカード会社のみでしたが・・・
その存在価値が薄れ始めていると思って間違いないです。

金融庁の基本方針は「規制」より「育成」へ

世界では、仮想通貨を禁止、規制を強化している国もあります。仮想通貨がマネーロンダリングの温床となったり、反社会的勢力によるアングラマネーの隠れ蓑になるとの懸念があるためです。あと中国のように、政府がコントロールしきれないという理由だけで禁止している例もあります。

その一方で、仮想通貨に対する日本の法規制は先進的です。2017年4月に「仮想通貨法」が施行され、仮想通貨を決済手段として利用し、日本円と交換できる通貨と認めました。また、仮想通貨の価格変動によって譲渡益を得た場合は、雑所得として課税されることも決定しています。

我が国の金融庁は「規制」より「育成」の方針を持っているのは間違いありません。残るは投資家保護です。それに関しても既に改正貸金決済法のように資産保全をするべきという検討に入っています。このあたりの安全網が整えば、仮想通貨が爆発的に普及する可能性を秘めています。

フィンテック企業と銀行のコスト体質は致命的

いわずもがなではありますが。。。 一応触れないわけにはいかないのが、ブロックチェーンを上手に活用するフィンテック企業と既存銀行のコスト体質の差。

「IoT(Internet of Things)」「限界費用ゼロ」という言葉を聞いたことあるだろうか?
ドイツの文明評論家であるジェレミー・リフキンが、メルケル首相に提言した「ネットワーク化したドイツ」という発想の中で唱えた象徴的なフレーズです。

「IoT」とは、全てのモノがネットに繋がり情報交換し、互いに制御しあうこと。
「限界費用ゼロ」とは、IoTが実現した社会では、モノやサービスを追加で生み出すコストが限りなくゼロに近づくこと。

2005年に語られた内容が、現在では実サービスレベルで実現されています。
そのコア技術がブロックチェーンです。

フィンテック企業と銀行のコスト体質は致命的

日経新聞にメガバンクによるフィンテックへの取り組みがよく掲載されている。 「ビットコイン」に対抗するかのごとく、「MUFJコイン」や「みずほマネー」といった仮想通貨を開発しているとのこと。
でもその本気度はどうだろうか? 日経の記事を良く読むと「フィンテックやってますよ!」というアピール記事が多い。

私の一存ではありますが、根本的な思想が違う国内大手銀行がフィンテック分野で成功する確率はないと思います。 日本の銀行と米国西海岸系フィンテック企業では、DNAから違うといっていい。

銀行員のキャリアとして、「フィンテックの流れに乗れる方法はないか?」と情報感度が高い人ほど、その焦りは強いはず。

その答えは、まずは銀行から離れるしかない。 IT系から金融業界へ進出している企業は狙い目です。例えば楽天。あとはSBIグループにも注目しておくべきでしょう。

過去の経験が通用しない前人未踏の世界。 一通りの情報収集を終えたら、自分の頭で仮説を立て、行動に移す準備を始めるしかないです。

最後に、国内のフィンテック系ベンチャー企業を紹介します。 ただ残念ながら、今から紹介するベンチャーで銀行員のキャリアを活かせる可能性は低い。 今のところは「このような会社が注目されているのだ」という認識を持ち、本格的に転職先を探すときはキャリアコンサルに相談をするのが無難です。

  • ビットフライヤー

    ビットコインの取引所。3メガグループ+第一生命など幅広く出資を受けプラットフォーム化を狙っている。

  • マネオ

    三井住友銀行/GMO/IIJの出資を受けているソーシャルレンディング会社。最もわかりやすい銀行中抜きのビジネスモデル。

  • リキッド

    生体認証でクレジットカードレス、ポイントカードレスを実現する決済サービス。

  • ウェルスナビ

    ロボアドバイザーによる格安手数料を売りにした資産運用サービス。3メガバンクが共同出資している会社。

  • LINE株式会社

    「LINEペイ」や「フォリオ」といった金融サービスを矢継ぎ早に提供開始して、遂に新銀行を設立します。

    1. LINEペイ

      友達同士で送金可能。お店ではスマホでQRコードを読み取るだけで代金を支払える。同種のサービスにオリガミペイやアリペイがある。

    2. フォリオ

      投資テーマを選んで、低額資産(10万円程度)から分散投資できるサービス。

    3. LINE Bank

      みずほFGと組んで銀行サービスを2020年に開始予定。

その他にも、メルカリやDMM.comなどが金融事業へ参入する事を表明済み。
ネット社会で成功(≒プラットフォーム化)すると、金融事業へ乗り出すという展開が最近のトレンドです。

そして海外へ目を向けると、Ant Financialのサービスに注目しておくのが良いです。日本では「アリペイ決済」が既に有名になりましたが、注目すべきは「ジーマ信用」です。ビッグデータで個人の信用度をスコアリングして、キャッシング金利を決めたりアパートを借りる時の保証金を変動させます。中国では「ジーマ信用のスコア」が低いと、日常生活が窮屈になるほど広まっています。
日本でもこの分野は壮絶な市場競争の後に、1社独占となるでしょう。LINE Bankの狙いもココにあると思って間違いないです。

注目ニュース

デジタル通貨「リブラ」の構想

27億人の利用者を抱える米フェイスブックが、デジタル通貨「リブラ」を2020年に開始すると発表。リブラ発行の狙いは、銀行を介さずスマホで送金や決済を利用できる基盤を作ること。特徴は、ドル・ユーロ・円といった複数の法定通貨を裏付け資産とすることで、仮想通貨(ビットコインなど)とは差別化を図ってきたこと。リブラの枠組みには、米マスターカードやビザ。ペイパルといった決済大手が参加している。

LINEバンク誕生

LINEがみずほ銀行と新銀行を設立する事を発表。出資比率はLINEが51%で、みずほ銀行が49%となる。2019年春に準備会社を設立し、2020年に業務を開始する予定。当初のサービスは少額送金・短期の少額融資機能を予定している。この提携でLINEは「保険」「仮想通貨交換所」「証券」「銀行」と主要金融サービスをフルラインナップで提供できる体制を整えた事になり、既に楽天が歩んだ道を5倍速で追いかけている。

仮想通貨NEMにハッキング被害

コインチェック株式会社は、同社が運営する取引所サービス「Coincheck」において、仮想通貨NEMを不正送金されたと被害を発表。被害総額は約580億円。セキュリティ対策、投資家保護、社会的信頼性を問われる事件となる。(※続報:今回被害にあった26万人分のNEMを全額保証するとコインチェック社が発表。)

ビットコイン分裂騒動

参加者間の対立からビットコインが分裂する懸念が発生し、取引価格が大幅に下落している。この騒動を見て「やはり危ういから近づかないでおこう」と思うか、「市場認知される直前に起こる儀式に過ぎない」と楽観的に受け取るかは、情報の受け手のリテラシーが問われる。

2017年春の銀行法改正で銀行によるフィンテック企業の買収が可能になる。

現行の銀行法だと、銀行が事業会社へ出資できる範囲は5%まで。持ち株会社を使っても15%までと制限されている。出資比率を高めて買収を可能とする法改正が待たれ、金融庁内部でも検討されている。早ければ2017年春に法改正が予定されている。

ジャパンネット銀行がAI(人工知能)を利用した新型融資を開始。

クラウド会計処理サービスfreee(フリー)を利用することで、決算内容だけでなく日常的に発生する売掛・買掛の発生・消込まで把握できる為に、無担保・無保証での融資を実現できる。これにより審査が手間で金融排除先となっていた中小零細企業にも資金供給が可能となる。

今回のまとめ
  • 銀行の独占的業務をフィンテック企業に奪われる
  • フィンテックの基盤技術はブロックチェーン
  • 雨後の筍のごとく新興企業が勃興している
  • フィンテックへの情報感度を高めて備える